Age of Empires2とOverwatchを踏まえた「アイヌ殺す」発言について思っていること

しりうすです。

ちょっと前から、「ゲームに登場するアイヌ民族」に対する過剰反応をしている極小数の方々の騒ぎっぷりが目につきますね。アレについてちょっと思ったこと+キャラクターの呼び方のあれこれを書きます。

事の発端

まずは自分の知るかぎりの出来事を時系列順に。

  • KOF14に出てくるナコルルというキャラクターはアイヌ民族の女の子
  • そのナコルルがやたら強いらしい(ゲーム調整の話は焦点ではない)
  • あるプレイヤーが悔しさ・憎しみのあまり「アイヌ殺す」とこぼす
  • ある正義の味方気取りが「こいつ差別発言した!殺害予告だ!」と過剰反応
  • 「どう見てもゲームの話だろ…」というツッコミが入るも後に引き返せず自燃し続ける正義の味方気取り
  • 正義の味方気取り、ついにSNKプレイモア嘆願書を送る←イマココ!

嘆願書本文はこちら↓

アイヌ民族尊重の呼びかけに関する嘆願書 株式会社SNKプレイモア ならびにナコルル声優 生駒治美さん、中原麻衣さんへ - はてこはときどき外に出る

キャラクターを危うい別の名前で呼ぶこと

正義の味方気取りが反応するきっかけになったのは「アイヌ殺す」という一言だったわけですが、果たして「固有名詞じゃなくてセンシティブな単語を使うのってどうなん?」という出来事はゲーム史上初めての出来事なのでしょうか?

その1 "Fuck you Jap!"

私の知る範囲での話になりますが、まずはAge of Empires IIという1999年発売のゲームがあります。リアルタイムストラテジーゲームの老舗ですね。一時期は日本でもちょいちょい流行ってたようです。面白いですよ。

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Steam:Age of Empires II HD

このゲームにはブリトンや中国、サラセンやトルコなどの"世界各国の文明"が登場します。なんと我らが日本もゲームに登場するのです。

その日本の文明からは「侍・剣豪(Samurai)」が登場し、相手の文明固有のユニットをなぎ倒したりするのですが、そこで外国人からよく言われていた言葉が"Fuck you Jap!!(クソ日本文明がァッ)"でした。

私は日本人ですが、プレイヤー名からは明らかに日本人だとわかるような名前ではありませんでしたし*1、チャットでも英語で話していたので自分が日本人であると知るすべは相手にはありません。なのでこの"Fuck you Jap!!"は「日本文明」という1つのキャラクターに対して吐かれた暴言です。

私は小学生の頃アメリカのカリフォルニア州シリコンバレー)に住んでいた経験があるので、フツーの日本人以上に"Jap"という言葉の取り扱いについて理解しているつもりですが、それでもこの"Jap"という言葉は文脈上日本人を差別してるわけではないから問題ないと判断できます。

また、「そもそもJapが差別用語であって~」みたいな疑問を持つ人もいますが、Japaneseという単語自体が音節が結構多めなので(ジャ・パ・ニーズ)、短くしたいからJapsと呼ぶ人もゼロじゃないんですね(口にした後に気まずそうに「そういう意図は無いので念のため…」って言う人もいます。かわいい)。Age of Empires 2の実況動画で日本が大好きな外国人「Go go Japs!」とか言ってるのを見たことがありますが、彼らには差別とか侮辱の意図は全くもってないし、その呼び方を咎める人は自分は見たことは一度もありません。

その2 ゴリラのハランベ

皆さんは2016年発売のOverwatch(オーバーウォッチ)というFPSゲームと、ハランベというゴリラのことはご存知でしょうか?Overwatchにはウィンストンという名の心優しい科学者のゴリラが登場します。

www.jp.square-enix.com

そしてハランベとは、アメリカの動物園で飼育されていた絶滅寸前のニシローランドゴリラの名前です。

ハランベ (ゴリラ) - Wikipedia

このハランベというゴリラ、ある日動物園に来ていた子供が柵を乗り越えてハランベのいるエリアに侵入してしまい、動物園の職員に危険な状態と判断されたため射殺されてしまいました。射殺されたのはゴリラの方です。子供ではなく。

そんなわけで侵入してきた子供とその保護者の是非はともかく、ハランベは「非業の死を遂げた哀れなゴリラ」として認識されています。

さてOverwatchは対戦型FPSゲームですので、当然相手のプレイヤーがこのウィンストンというキャラを使っている可能性は大いにあり、ステージによってはスタメンと言えるキャラです。そしてOverwatchはバランス調整が良く行われるゲームであり、ウィンストンを天敵とするキャラもいたりするわけです。そう、実際にウィンストンに対して「死ねハランベ(Die, Harambe!)」という言葉が吐かれるのです。

↓実際に吐かれた例

https://youtu.be/wu42N8VaVdo?t=12m24s

既に死んでいるゴリラの名前を出して、ゲーム内のゴリラに死ねと叫ぶ。果たしてこれは不謹慎でしょうか?蔑称でしょうか?結論としてOverwatchのコミュニティでは「ネット上内のミームスラング)なんだからそのへん空気読めよな」という返しをされたりするわけです。

別に今回に限った話ではなかった

私の知るかぎりでは2つしか思い当たりませんでしたが、1999年の例と2016年の例を挙げれば十分でしょう、21世紀の出来事はフツーに20世紀にもあった。そして正義の味方を気取って「いーけないんだ!いけないんだ!皆に言ってやろ!」みたいなことをするお子様もいませんでした。

なぜ今回話が大きくなったのか?

盛り上げ定番の"ヘイトスピーチ認定"

ヘイトスピーチ」「差別問題」というカテゴリは過激な発言が大好きな人にとってはヒジョーにホットだと思っています。なぜかと言えば、「ヘイトスピーチは良くない」「差別は撤廃すべきだ」と正義の拳を挙げると反論されにくい正義の味方になれるからです。それゆえ反ヘイトスピーチ派のTwitterは過激な言葉を含んだつぶやきだったり、英語を覚えたての子供のように中指を立てた写真をupしまくっていたのだという認識を自分は持っています。

あと、「反ヘイトスピーチ」に対して異論を述べると、「反ヘイトスピーチの反対=ヘイトスピーチ→差別主義者か!」と認定する人は多いです。

そんなわけでホットな差別問題ですが、果たして正義の味方気取りの「アイヌ問題に対する認識」はどの程度でしょうか?

anond.hatelabo.jp

気になって調べてみましたが、彼女は、2009年からブログを始めて、大体500件位エントリーありますが、その中でアイヌ問題について論じたのは次の4件だけです。

7年間の活動期間の中、今年…それも今月に入って初めて言及する程度ですね。

正直な話、この程度の取り上げ頻度では「自分が正義の味方である」認識を大衆に広めるために、ちょうど手頃な差別問題が転がってたし、相手は口論の弱そうなゲーマーだから噛み付いてみたとしか思えないです。

ちなみにTwitter社からは大本の「ナコルル殺す」発言はヘイトスピートではない認定されてるそうなので、もう退くに退けないフェイズなんだろーな。

差別は良くないよ?でもなぁ

差別はもちろん良くないんですけど、少なくともこの正義の味方気取りはアイヌ問題の解決のための「真の正義の味方」には断じてなり得ない。そう思って生暖かい視線で見守っていこうと思います。

 

ネット上内のミームスラング)なんだからそのへん空気読めよな」!

*1:Razorなんとかって名前で遊んでた